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モーツァルトとタスク管理

モーツァルトとタスク管理

私は趣味でクラリネットを吹いています。クラリネット吹きにとって、モーツァルトは大切な作曲家です。クラリネットを取り上げた彼の名曲「クラリネット五重奏」「クラリネット協奏曲」は、古今のクラリネット吹きにとってはなくてはならないレパートリーです。そんなモーツァルトが、タスク管理についての記事で引き合いに出されていました。

www.lifehacker.jp

 

モーツァルトの作曲タスク

モーツァルトの作曲方法については、以前こんな記事を書きました。

hochebirne.hatenablog.com

 モーツァルトにとって作曲とは、頭の中に出来上がっている楽譜を紙に書き写すだけの作業でしかないんですね。

 

先で引用したlifehackerの記事では、おそらくモーツァルトの作曲タスクを、他の作曲家のそれと同じように考えており、それらを驚異的な速さで行うことをもって「天才」と言っています。メロディを考えついて、それに合う伴奏をつけて、それらを演奏させる楽器を組み合わせて、というプロセスを経て曲を完成させるという一連の作曲に関するタスクを、まるでボルトが100mを9秒58で駆け抜けられるのと同じように、人間が行うことができる限界の速さでこなすことができる、という論調です。

 

モーツァルトは人間ではない

モーツァルトの作曲方法は、他の作曲家のそれとは根本的に違うのです。モーツァルトは、何か曲を書こうと思ったらすでに脳内に楽譜が出来上がっているのです。ああでもない、こうでもないとメロディをこねくり回したり、楽器の組み合わせを入れ替えてウンウン唸ったりはしないんです。彼の自筆譜には訂正の跡が無いと言われていますが、それは単なる写譜作業に過ぎないからなんですね。

 

モーツァルトは、作曲能力を鍛えて人間の限界を達成するというやり方ではなく、もともと人間業ではない方法で大量の曲を生み出しています。つまり、彼は人間ではない。作曲に関するエピソードを知れば知るほど、モーツァルトは神か悪魔だとしか思えません。

 

だから先延ばしして良い

もし我々が20時に飲み会の席で「この20ページの書類を明日の12時までに書き写して欲しい」と言われたら、間違いなく翌日午前中にしますよね。飲み会の席で仕事を頼むことの是非は別として(笑)

モーツァルトにとっては「明日のオペラの序曲の作曲」はその程度のことだったのではないかと思います。一般的な「作曲」と捉えれば時間の見積もりが難しい「ヒラメキ」的要素が存在しますが、彼にとっては楽譜を紙に書き写すだけの作業でしかない。「モーツァルトはプレッシャーに強い人間だった」とlifehackerでは言っていますが、そもそも彼にとってプレッシャーのかかる行為ではなかったんじゃないでしょうか。だから、先延ばしにして良い条件「タスクにかかる時間を正確に把握していること」「先延ばしすることを意識的に自覚すること」が成立します。

 

天才の種類

クラシック音楽の作曲家で、世に残る名曲を生み出した数々の「天才」と呼ばれる作曲家も、艱難辛苦の末作品を生み出したりしています。マーラー交響曲というジャンルの概念を変えたほどの大天才ですが、初演後も楽譜を訂正し続けるなど、作曲には相当程度時間と手間をかけて作り上げています。ベートーベンもブラームスも、一曲書き上げるのに年単位の時間をかけていたりします。それは、マーラーやベートーベン、ブラームスは脳で曲を作っているからです。

 

対してモーツァルトは、脳で曲を作っていないとしか言いようがないですね。人智を超えるとはこのことかと。彼に必要なタスク管理は、とても簡単なものだったと思います。