ForGetting Things Done

「水のように澄みきった心」で頭空っぽに。

タクシーと有村昆

タスク管理を始める随分前の話をします。

 

司法書士試験の受験勉強にかなりの時間を費やし、社会に出て働き始めるのが遅かった私は、その遅れを取り戻さんと一生懸命働きました。本当に100%の力で一生懸命働いてしまい、自分で処理しきれないほどのタスクを抱えてそれでも引き受け続けるという「自滅」としか言いようがない状況に自ら進んではまり、休職を余儀なくされました。

 

その休職直前期、記憶に残っている光景があります。

 

タクシーの後部座席に私が座り、目の前に小さなテレビがある。
そのテレビには、有村昆がハイテンションで映画を紹介する番組が繰り返し映し出され、あまり考えられない頭でボーっと見るとはなしに見ている。

 

当時の職場は三軒茶屋にあり、そこからタクシーで家まで帰るのには1時間前後。夜間料金体系で1万1,000円ほどかかります。

 

なぜタクシーで帰っていたのか。お金があったからではありません。心底疲れ切ってしまい、どうしても渋谷や新宿の人混みを経由して帰るのが耐えられなかったからです。疲れていても、10倍以上のお金を使って帰るなんてただ事ではありませんよね。その時は、それでもタクシーを使わないと平静を保てないことが多々ありました。

 

精神的な辛さが常態化して溜まってしまうと、普通なら簡単にできることができなくなります。ただ単に電車に乗って移動することすらできないという事態に、ああ、自分は危ないなと思ったことを覚えています。

 

そんなタクシーの中で疲れ切ってボーっとしている私と、その視線の先のテレビの中でひたすらテンション高くお気に入りの映画を勧めてくる有村昆という対比が、とても印象に残っています。ほぼ抜け殻のようになりつつも、無邪気に喋る彼にそこはかとない安心感と、その楽しそうな雰囲気を別世界のように感じてしまっている虚無感がないまぜになった不思議な感覚は忘れられません。

 

その後、程なくして、仕事中に思考が全然働かなくなり、上司と人事宛にもう無理ですと休職の申し出をすることになります。資格試験の挫折を経てせっかく社会に出ることができ、少ない給料ながらとにかく働けるようになったのに、社会人として人並みの幸せを味わうことすら自分には許されていないのかと悲しくなったことが思い出されます。

 

今でもタクシーに乗る度、そして有村昆をテレビで見かける度に、あの時の何とも言えない感情が蘇ります。

 

タスク管理を知っていれば、GTDを実践できていればもしかしたら、と思う時もなくはないですが、あの経験があればこその今なのだと、今では心底思います。それから数年間「次こそは!」と自分に期待しては仕事が上手くいかない自分に失望することの繰り返しでしたが、その時期は自分の弱点を受け入れてタスク管理を始めるための通過儀礼だったのだと思います。

 

などとわーわー言うとりますが、つまるところ仕事のやり方を激しく間違えて自滅したどうしようもないだけの話なんですけどね。ただ、私がタスク管理を継続できている源の何分の一かは、タクシーの中で見た有村昆のおかげなのかもしれないな、とは少し思いました。