発達障害者支援"Teacch Program"をタスク管理で実践!①
Teacch Programを知る
先日、障害者就労移行支援事業所の理事の方と飲みつつ打ち合わせをしていたときにこの話題が出てきました。音で聞くと「ティーチプログラム」。何かを教えるのか?と思ってしまいますが、
Treatment and Education of Autistic and Related Communication handicapped CHildren(and adults)
のそれぞれの頭文字を取って"Teacch "です。「自閉症及び関連障害、関連領域にコミュニケーションの障害をもつ子ども(と成人)の治療と教育」という意味です。
※この訳語は、立命館大学で行われたよこはま発達障害クリニックの内山登紀夫さんの「TEACCHの今日的課題」という講演の記録を引用しています。
http://www.ritsumeihuman.com/uploads/publications/102/14_3.pdf
なお、今では自閉症という名称はなくなり、アスペルガー症候群等と共に「自閉症スペクトラム障害」という名称にかわりました。そして、自閉症スペクトラム障害はADHD、LD(学習障害)と共に発達障害という大きなくくりに入ります。その概念図は下のリンク先ページをご覧下さい。
私はADHDの診断を過去に受けています。薬の投与はあまり受けていませんので軽い方なのかなと思ってはいますが、発達障害者にカテゴライズされるであろうと思っています。そんな私だからこそ食いついたのがこのTeacch Programというものです。
Teacch Programとは
Teacch Programは、その掲げる理念に基づき発達障害者が健常者と共に安心して生活していけるようにするためにアメリカのノースカロライナ大学で開発された支援プログラムであると説明されています。
発達障害は先天的な「特性」であり一生付き合っていくものだという考え方に基づいているので子供が対象になっています。しかし、今や大人も子供も対象に発達障害への取り組みがされているので、大人も含むよう適宜読み換える必要があります。それを念頭に置きつつTeacch Programが掲げる理念を以下に書き出します。
※ネットで見る限り理念は7つだったり8つだったりするので、当ブログ記事を読むだけであればサラッと読み流す程度で良いです。
TEACCHの理念
1)自閉症の特性を理論よりも実際の子供の観察から理解する
2)親と専門家の協力
3)子どもに新たなスキルを教えることと、子どもの弱点を補うように環境を変えることで子どもの適応能力を向上させる
4)個別の教育プログラムを作成するために正確に評価する
5)構造化された教育を行う
6)認知理論と行動理論を重視する
7)現在のスキルを強調するとともに弱点を認める
8)生涯にわたるコミュニティに基盤をおいた援助
これらの理念の中で特に重要なこととして取り上げたいのが次の3つです。というのも、Teacch Programの話を聞いてすぐに、私がタスク管理を習得し実践に至るまでの過程を連想させるものだったからです。
「弱点を認める(7)」ことを前提に
「弱点を補うように環境を変える(3)」ために
「構造化された教育を行う(5)」
まず注目したいのが、弱点をなくすのではなく認めて補うという姿勢です。ウイルスやガンのように発達障害特性を退治しよう消し去ろうというのではなく、それを特性としてそのままにして、そこからどうやっていくかを考えるというのは、本人はとても救われます。奇しくも、自分の駄目な部分を直すのを諦めてそれを手助けしてくれる存在として自分用のタスク管理ツールを作り使い始めたという経緯と似ています。
「構造化」は分かりづらいですね。しかし、ここにタスク管理との共通性を感じたので大事なところです。解説を試みます。
「構造化」とは?
「構造化された教育」は原文ではstructured teachingと書かれています。structureという動詞を調べると「〈考え・計画などを〉組み立てる、組織立てる。」という意味があります。
私見ながら「周囲の物や情報を本人が分かる状態に配置したり組み立てたりして、より円滑な課題の遂行を助けること」と理解しています。可視化したり音で知らせたりする等の方法で、やるべきことを本人が正しく把握できるようにすること、とも言えましょうか。例えばパーテーションで仕切って目の前の作業に集中しやすくしたり、作業を絵にして着手する順番に並べて段取りを分かりやすくしたりする、といったことです。
構造化の4つの要素
そして、この「構造化された教育」は4つの要素に分けられます。これらは1つの構造化に2つ以上の要素が入っていても良いようです。
①物理的構造化
やるべきことを遂行するために必要な情報に注目できるような環境を整えることです。上記で挙げたパーテーションの例等がこれにあたります。
②作業手順の構造化
やるべきことを完了させるまでにどのような手順を踏めば良いかを明確にすることです。上記で挙げた作業の順番を表示する例等がこれにあたります。
③視覚的構造化
今やるべきことや目的、手順などを視覚的に分かりやすくすることです。上記で挙げた作業の順番の表示の例で「絵」によってその内容を表していること等がこれにあたります。
④時間の構造化
やるべきことの内容を、時間軸と共にわかりやすく提示することです。一日のスケジュールを表示してどこからでも見えるように掲げておくこと等がこれにあたります。
構造化を行う際に明確にすべきこと
構造化による教育をする際、以下の点を明確にしてする必要があるとされています。
・「どこで」やるのか
・「いつ」やるのか
・「何を」やるのか
・「いつまで(どのくらいの量)」やるのか
・「どのようなやり方で」やるのか
・「どうなったら終わりなのか」
・「終わったら、次に何があるのか」
※独立行政法人 高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター作成「発達障害を理解するために~支援者のためのQ&A~」31ページより
http://www.nivr.jeed.or.jp/download/center/practice14.pdf
ここまでくると、タスク管理をご存知の方々は「あれ、これタスク管理じゃね?」と思うはずです。タスク管理手法の1つ”GTD”の5つのフローのうち「タスクの見極め」で気を付けるべきことそのままと言って良いと思います。特に「作業手順の構造化」は、タスクの見極めのときに必ず行う「タスクの分解」と完璧に一致します。
タスク管理ツールで「構造化された教育」を実現
冒頭に書いた障害者就労支援事業所の理事の方が自らタスク管理をされており、私の実践しているタスク管理がTeacch Programの「構造化された教育」に似ているという指摘をいただき、私の頭の中で一気に「タスク管理」という点と「Teacch Program」という点が1本の線でつながったのです。
Teacch Programについて調べるにつれタスク管理との共通性を発見した私は、まるで天空の城ラピュタにたどり着き石板を見て「読める!読めるぞ!!」とヒートアップするムスカのような興奮状態になりました。
厳密に言うと、一般的なタスク管理ではなく、私が独自にカスタマイズしたタスク管理ツールが上記の構造化を実現しているということになります。次回以降構造化の4つの要素を1記事ずつ取り上げて、構造化された教育が私のタスク管理ツールにどのように反映されているのかを説明していき、タスク管理との親和性をお伝えしていきたいと思います。
なお、この構造化された教育というものは__これも私見ですが__発達障害者にだけ有効なものだとは思えません。自分は発達障害じゃないかと思っているが診断は受けていない方、発達障害とまでではないが要領が良くない・不器用だと思われているようなグレイゾーンにおられる方にも大変有効なものだと考えています。
また、発達障害と言っても色々な人がいます。それこそ仕事をすることすら難しい人もいます。残念ながら、私が紹介するタスク管理はある程度社会生活が送れる人が対象にならざるを得ません。
ただ、10年前に診断を受け、これから社会人として生活をしていけるのかと自信を完全に喪失していたときの自分のような人がもし今いたら、良い変化を起こせるようになるかもしれないと思います。私に起こったように。
発達障害の方も、そうでないグレイゾーンの方も、何か生きやすくなるヒントになればと祈念しつつ。