タスク管理の枠からはみ出る仕事「オーケストラの指揮者」
オーケストラは会社に例えられることが多いです。
イタイ・タルガム 「偉大な指揮者に学ぶリーダーシップ」
https://www.ted.com/talks/itay_talgam_lead_like_the_great_conductors/transcript?language=ja#t-184280
指揮者が社長、各楽器の首席が部長、それ以外が平社員。
指揮者は会社における経営者のような仕事もする
指揮者は、各楽器の音を調整して、作品として良い形に整えるという仕事があります。
1回の本番に対して3日間程度の練習時間が与えられ、その時間内で、指揮者はオーケストラの演奏者に自分の思うような演奏をさせなければなりません。
そのためには「作品を仕上げるためにやるべきこと」を収集し、分析して、どんな練習をどんな順番でやれば一番効率が良いか、オケと初めて顔を合わせて音を出した時に、すぐに把握する必要があります。
いわば、新任の雇われ社長が、1日もしないうちに業務改善に着手し、すぐに結果を出さなければいけない、というような状態です。
やる仕事の内容は経営者と似ていますが、求められるスピードは段違いですね。
社員は曲者ばかり
しかも、オーケストラの演奏者は、それまで音楽の専門教育を受け続けてきたプロフェッショナルのみ。自分より経験年数の多い人もいます。皆、自分の楽器の腕、音楽性に自信を持っています。
適当なことを言ったら最後、信用してもらえません。結果、指揮者のやりたいような音楽ができずに終わります。つまり「結果を出せない」のです。
だからと言って楽員に媚びても良い音楽はできません。オーケストラ100人が全員同じ演奏をすることはまずないので、統一感の無い音楽になってしまいます。
指揮者の仕事はほぼ「人心掌握」
では、優秀は指揮者はどうやって演奏会を成功に導くのか。
各楽器の特性をあらかじめ頭に叩き込んでおき、無理なことは要求せず、しかし、自分の要求することはキチンと伝える。このバランスを取ることが上手い人が、優れた指揮者です。
拍の取り方が上手いとか、棒の振り方が上手いとか、あまり関係ありません。指揮者は、自分の実現したい音楽をいかに楽員に伝え、それを受け入れさせるかが勝負です。
したがって、「演奏会を成功させる」というタスクを設定して、それを細いタスクに分解して実行していけば必ず目的を遂行できる、といったタスク管理には馴染まないと思います。
アマチュアオーケストラであっても、指揮者はプロであり、同じ仕事をします。アマチュアだから「全部おれのいうことを聞け!」と上から目線でいると、我々アマチュアオーケストラはそっぽを向きます。音楽界に噂が巡り巡って、悪い評判が立ち、その指揮者は仕事ができなくなります。
抜きん出た「名指揮者」の仕事
世界に名だたる指揮者は、人心掌握など考えていないように見えます。それに気を使っているんでしょうけど、それどころでは無い何かを持っています。
指揮台に立った瞬間にオーケストラがその指揮者に滅私奉公する、というのでしょうか。
さらに凄いのが「自分達は滅私奉公させられている」という実感がオーケストラの側に無いことです。
自分の腕で、自分の裁量で、自分の思う通りに演奏しても、結局指揮者の思う通りに動かされている。
私も、いわゆる「世界的な名指揮者」に振ってもらって、オーケストラで演奏したことがありますが、そんな感じでした。
どうしてこんなことができるのか、いまだに分かりません。魔法としか思えません。
私が「この部分はもうちょっとテンポが早い方が良いな」と思い、他の楽器の奏者が「遅くして欲しい」と感じていた箇所がありました。
その指揮者が振ったところ、私は「早くてちょうど良い」、他の楽器の奏者「遅くて良い」と感じました。
こんなことを普通にできてしまうのが、名指揮者です。
タスク管理とは無縁の世界
オーケストラの指揮者は、各タスクに拘泥せず、ひたすらアーティスティックに自分の音楽を、魔法を駆使して演奏していれば良いんじゃないんでしょうか?(笑)
ごくたまにカリスマ経営者でこんな感じの人はいますが、いわゆる普通の会社で仕事をしていく上では、何かの魔法が使えるので無い限り、きっちりと業務タスクを積み重ねていく世界で真面目に生きていくのが良いようです(笑)